【第一部】
少し長くなります。
私が担任をしていた子の中に、2人の忘れられない子がいます。
たくさんの人数を担任をしてきた訳ですが、
今回のテーマである「文章で思いを伝える」という視点で、
忘れられない2人の児童です。
まず、一人目。
その女の子は、高学年のときに担任した子です。A女としましょう。
私はA女から、ある相談を受けました。
「自分の思っていることをうまく友達に伝えられない。」
というのです。
話をしてみると、少年団に所属しているA女は、
「練習中の仲間に、もっとこうしようと思っていることや、
自分はこう思うということも、どうやって伝えたらいいか分からないので、
当たり障りなく笑ってごまかしてしまう。」と。
それだけでなく、反対されるのが怖いので、
自分が思っていることと真逆のことを言うそうです。
そんな自分が嫌いだと…。
そんなA女と相談して、「感情日記」を書くことにしました。
その日記には、他人(仲間)には伝えられない自分の思いを書いていい
ということ、私しか見ないので、きつい用語も使っていいとしました。
その日記に対して、私が必ず返事を書くという約束でスタートしました。
最初、表現が乏しく、「腹立つ」とか、「むかつく」という単語で、感情を表現していました。
自分の感情を表には出せないから、提出する日記には、「怒り」「悲しみ」が、羅列してありました。
感情や思いを伝える日記でしたが、私の返事(赤ペン)ついでに、
『「腹が立つ」という表現を、より腹が立っている表現にするために、こう書くといいよ。』
と、アドバイスしたり、
「腹立つという言葉を使わないで、腹が立っていることを表現してみて。」
と課題を出してみたりしました。
「先日の感情が落ち着いてきたのが、〇〇っていう表現から伝わってくるね。」
というような返事を書くことで、表現力にも磨きが掛かっていきました。
自分の思いを文章で表現することが、楽しくなっているようにも思えました。
最初は感情だけの表現でしたが、そのうち、感性の表現もあり、しまいには自分を見つめる日記に変わっていったのです。
数か月続いた日記にある日、A女が、
「やったよ! 先生!」
という書き出しの文からスタートする日記を書いて提出しました。
「今日、仲間に勇気を振り絞って伝えたことがある。
もっと、こうしてみようよ。だって、△なんだから…。
すると〇〇は、意見を言ってきた。
でも、私は諦めずに自分の思いを伝えた。
(中略)
〇〇と私は、数年の時を経て、分かち合うことができたのだ。」
その時の情景と状況を見事に表現して私に伝えてきたのです。
興奮していることも、自分のその時の思いもひしひしと伝わってくる文章でした。
過去の自分と決別できた喜びを主張していたのです。
その日記に目を通した後、
「やったな。成長したな。」
「はいっ!」
と、会話したことも忘れられません。
もう一人。
彼(A男)は、自分の考えや思いをしっかりと持っている子でした。
その時の思いをうまく言葉で伝えることができます。
学級でも中心となる人物で、
理論だてて発する言葉や会話で相手を丸め込むことは、おちゃのこさいさいと言った感じ。
この時の学級では、「日記」を毎日の家庭学習の1つとしていて、40人近い子供たちの日記に目を通すことが、
毎日の私の日課となっていました。
A男との日記には、友達への不満、家族との出来事、自分の生き方について、ノート1ページにびっしりと書かれていました。
時には数ページにも渡ることもあり、感情をエネルギーにして書き綴っている感じがしました。
「自分は悪くない!」
「分かってくれよ! 先生!」
「分かってくれよ 誰か!」
そういう隠れたメッセージが全面の内容だったと思います。
そんなA男にも必ず返事を書きました。
ただ、私は、A男の行動や言動に対して、問う返事を多くしていたと思います。
「なぜ、相手はそうしたんだと思う?」
「もし、君がそうしなかったらどうなっていただろう…。」
「なぜ、お父さんは、〇〇したんだろうな…。」
「そのとき、彼は、どんなことを考えたと思う?」
といった感じ。
言葉のやり取りで始まった日記でしたが、
そのうち心でつながる日記となり、日記を書くことがA男にとって、習慣となっていったのです。
確かに、けんかになった原因が、A男にあるとはいえない場面もありましたが、
相手の思いを感じる必要もあることを伝えたかったのです。
彼との日記は5,6冊になったと思います。
30歳を過ぎた彼は、今でもその日記を大切にしまっているらしく、時々思い出しては読んでみるそうです。
さて、この2人に共通していることは何でしょう?
このブログをご覧になった皆さん、それぞれに着眼点があると思いますが、
2人はこの日記の表現を通して、
「自信」と「自己肯定感」を培ったんだと思います。
思いを表現する楽しさ、喜び、悩みも。
そういう経験が、行動に変化して、生き方にも影響が出たんだと思います。
日記だけではありませんが、生き方を見つめる手段やきっかけに気付いた子は、
ある意味、幸せに近付くと思うのです。
第一部はここまで。
この写真に関係する第二部は、来週アップします。
おたのしみに…。